本書は、諸子百家の思想家の中から、墨子、荀子、管子、韓非子、孫子の5名を選んで、著作から主要な部分を日本語訳したものである。なお本書で収録されていない諸子百家(の主なもの)は、儒家本流(孔子・孟子)と道家(老子・荘子)である。
そもそも諸子百家とは春秋戦国時代に活躍した思想家であるが、実際には今のコンサルに近いもので、各国を遊説して政治経済政策を説いていた。
そこで説かれていることは、紀元前の社会への言説であるにもかかわらず、びっくりするほど現代に通じるものがある。人間の社会は、2000年以上経ってもそんなに変わっていないということのようである。
春秋戦国時代というのは、非常なる乱世であった。それまでの安定した社会の仕組みが壊れ、戦争につぐ戦争の果てに社会が再構築されていく時代である。こういう時代背景は、今の世の中にも通じる所があるかもしれない。本書のような本は現実の社会には役に立たないもののように思うかも知れないが、決してそうではないと思う。
本書はもちろん気になる思想家のみを読むのでも十分に面白い。それに小さい活字の上下二段組み450ページは結構な分量だから通読を躊躇う人もいるだろう。しかしそれぞれの著作は抄訳であるため、読むのは意外と大変ではない(原著の半分〜2/3くらいになっている。ただし「孫子」は全訳)。諸子百家の主要思想がこの一冊で概観できると思うと、労力的にもかなりお得な本だと思う。
本ブログでは既に本書の内容それぞれについてメモを書いてきたが、以下簡単に紹介する(リンク先は読書メモブログ記事)。
墨子
https://shomotsushuyu.blogspot.com/2020/11/19.html
実利と鬼神とが奇妙に同居した、不思議な「有神論的功利主義」の書。
荀子
https://shomotsushuyu.blogspot.com/2020/11/19_23.html
科学的な思考によって儒学を再解釈し、環境や努力の重要性を謳う、乱世を生きる力強い思想の書。
管子
https://shomotsushuyu.blogspot.com/2021/02/19.html
現実的な人間理解の上に構築された政治経済学。法治主義の思想は近代的ですらある。しかし論文集的であるため一貫性はなく、通読するにはちょっと冗長。
韓非子
https://shomotsushuyu.blogspot.com/2021/05/19.html
人間不信の君主論。絶対主義国家を構築するための冷徹な政治経済学であるが、それを実行する君主もまたロボットのように非人間的であらねばならないという救いのない書。
孫子
https://shomotsushuyu.blogspot.com/2021/05/19_14.html
記述の態度が当時としては非常に新しい。故事ではなく論理性によって説明するのが現代的。最高の兵法書。
【関連書籍の読書メモ】
『大学・中庸・孟子』金谷 治・湯浅幸孫・日原利国・加地伸行 訳(世界文学全集 第18巻)
https://shomotsushuyu.blogspot.com/2020/08/18.html
儒教の重要な古典。日本においても、中国においても、思想史的な位置付けが興味深い独特な古典。
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