2013年12月1日日曜日

『近代日本の戦争と宗教』小川原 正道著

明治時代の戦争に、各宗教団体がどのように「対応」していったかを詳述する本。

明治政府というものは事実上クーデターによって成立したため、その正統性があやふやなところがあったし、一方、各種宗教団体は自らの存在意義を政府に認めてもらうため積極的に政府に協力する素地があった。そのため、両者の利害が一致し、かくして宗教団体は明治政府の戦争を積極的に支持し、寄付を集め、戦地へ赴くものを激励し、皇恩に報いよと教えたのであった。

この基本構造は、仏教も神道も、そしてキリスト教においても変わらない。ごく少数の例外はあったけれども、当時の宗教界は諸手を挙げて開戦に賛同し、戦争で人を殺すことはなんら教義に悖るものではないと人々を諭したのであった。ただ、もちろん、具体的にどのような協力をしたかは、各団体がおかれていた状況によって異なることは言うまでもない。

本書を読む上での私の関心は、浄土真宗西本願寺派の動向にあったのであるが、同派は明治期の戦争協力において、宗教団体として最大の貢献をしている。信徒から莫大な金を集め政府に寄附し、戦地へ従軍僧侶を大量に送りこんだ。そして、戦後は台湾、朝鮮、満州において積極的な布教活動を展開している。

どうして西本願寺派がこのように政府に協力的な姿勢を見せたのかというと、神道を国家の祭祀としていた明治政府に対し、真宗の存在意義を示す必要があったということ。そして本願寺派と政府要人との関係が深かったということがあるだろう。

本書の白眉は、西南戦争の項目である。私自身、西南戦争と宗教の関わりについてはあまり認識していなかったのであるが、蒙を啓かされる思いであった。西南戦争について、著者は別に一巻の本をものしておられるので、そちらも読んでみたい。

戦争と宗教ということについては、従来様々な研究があるが、このように通史的にまとめられたのは稀有であり、しかも、やや引用が煩瑣に過ぎるきらいはあるとはいえ、各種の資料を縦横に駆使しているため記述が総論的になることはなく具体的であり、しかも物語性と臨場感もある。完全な書き下ろしではないが、労作といえよう。

ただし、少し不満な点もある。それは神道界の動向がややあっさりと記述されていることだ。浄土真宗西本願寺派の必死の戦争協力に比べれば、神道界の動きは地味であったのは間違いないが、何しろ「国家の祭祀」であるわけで、もう少し丁寧に書いて欲しかった。国家神道の成立過程については既にたくさんの書があるということで、少し遠慮したのではないかと見受けられたが、せっかくの「通史」であるのでより詳しく説明した方がよかったと思う。