明治維新前後の宗教政策を「儀礼」を通じて概観する本。
本書の内容は主に3つである。
第1部では、明治維新前後の政局を宗教政策から読み解く。特に、明治天皇が生ける神話となっていく過程を追い、そこに果たした儀礼の役割が考察される。
第2部では、近代神道の創出過程を辿る。特に、明治初期の宗教政策を牛耳った津和野派の動向と、津和野派の思想的支柱であった大国隆正の思想が詳しく述べられる。
同じく第2部の後半では、それまでの概史から離れて、山王祭(日吉神社)が明治時代にどのように変容したかが語られており、これは一種のケーススタディとなっている。
本書の特色としては2つが挙げられる。
まず第1に、明治維新史の類書ではあまり取り上げられない、文久3年の将軍上洛がかなり詳しく説明されていることである。この上洛と天皇への謁見は、実質的に幕府の権威が禁裏の権威に敗北したことを象徴するエポックメイキングな出来事であった。さらに著者は、その上洛にあたっての儀礼を辿り、儀礼がどのように朝幕の関係性の再構築に寄与したかを分析している。また、五箇条のご誓文についても、条文そのものよりも、五箇条のご誓文を天皇がどのように誓祭したのかという儀礼の面から考察していて、これも著者独自の視点と思った。
第2に、明治政府の初期宗教政策に甚大な影響を与えながら、あまり思想内容まで踏み込んで語られることのない大国隆正について、その著作を多く引用して詳しく語っていることである。特に、大国が開国についてどのような立場を取ったのかということが時期毎に分析されている。本来的には攘夷的な性格が強い国学が、どうして開国を合理化したかということがよくわかる。
著者のジョン・ブリーンはケンブリッジ大学の日本学科で日本史・日本文学を研究。その後大学院では幕末明治の天皇をテーマに研究している。本書はそうした著者の中心的な研究領域の近年(2005〜2010年)の論文をまとめたもので、書き下ろしではないので後半は若干散漫な印象もあるが、まとまりは悪くない。
「儀礼」という地味なテーマながら類書にはない視点で明治日本の宗教政策を見つめ直す良い本。
0 件のコメント:
コメントを投稿