2012年8月25日土曜日

『甘藷の歴史』 宮本 常一 著

甘藷(サツマイモ)の歴史についてまとめられた貴重な本。

茶や米といった作物なら、その故事来歴を語る本はたくさんあるが、サツマイモのようにありふれた日常的なものは、なかなか注目を浴びにくい。だが、痩せた土地でもよく育ち、手間もかからないというサツマイモは、確実に庶民の生活を変えており、さらにいえば農村の社会構造にすら大きな影響を与えた。

著者は、単にサツマイモの歴史を辿るだけでなく、サツマイモが社会にどういう影響を与えたのかという深い洞察を加える。その文章は陰影が深く、余韻が豊かであり要約は無粋だが、あえて一言で言えば「サツマイモは多収な上に租税の対象にもならなかったので、農村の食糧を支え、単調ささえ我慢すれば食うには困らないという気楽な零細農をたくさん生み出す一因ともなった」というところだろうか。

なお、現在ではサツマイモという用語が定着しているが、鹿児島から日本に広がったわけではなく、一つのアイコンとして鹿児島があるに過ぎない。伝来の経路はアメリカ→ヨーロッパ(16世紀初頭)→中国(16世紀末)→琉球(17世紀初頭)とひとたび琉球まで伝えられる。それから経路は2つに別れ、一つは長崎の平戸で、もう一つは琉球→種子島→鹿児島(18世紀初頭?)と伝えられた。平戸と鹿児島がどちらが先なのかはわからないらしい。

このような経緯から、サツマイモは長くリウキウイモ(琉球芋)とも呼ばれており、サツマイモの呼称が定着するのはずっとあとの話だ。今でも京都あたりではリウキウイモということもあるらしい。だが、リウキウイモとサツマイモは品種が違っていたのではないかとか、正確にはわからないことも多く、甘藷の歴史はまだ茫洋としている。日本全体へ伝播していった歴史はさらにわからないことだらけで、顕著な貢献をした人以外にも、名もない多くの人々の努力によって広まったのだろうと著者は推測している。

ありふれた、でも重要な作物であるサツマイモがいかにして日本に根を下ろしたか、こんな問いは単なる暇つぶしの知的好奇心のようにも思えるが、実はそこから日本のいろいろなものが見えてくる思いがする。

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