2012年8月22日水曜日

『文明が衰亡するとき』 高坂 正尭 著

文明の衰亡に関する体系的な論考ではなく、エッセイのような本。しかし、慧眼に溢れていて、非常に濃密

本書では、ローマ帝国、ヴェネツィア、アメリカという3つの国家の勃興と衰微が説明され、その背景が考察される。もちろん、高坂氏はこれらの国家専門の研究者ではないし、歴史家でもないのだから、基本的には文献による研究であり、そこに何か新事実が含まれているわけではない。

だが、その考察に安易さはなく、また専門家にありがちな枝葉末節の長大な説明などもなく、非常によいバランスを保ちながら書かれている。

本書において著者自身が述べている通り、文明論というものは、その所属する文明が凋落の兆しを見せているからこそ興味を引かれるものである。だからこそ、本書がバブル期の1981年に書かれているということにも著者の洞察が感じられる。世間は80年代的な軽佻浮薄さに溢れていただろうに。この本は、今こそ日本の読者に真剣に受け取られるのではないだろうか。

ちなみに「あとがき」において著者は、「要するにこの書物は、昔から書きたいと思ってきた本である」と書いている。読んでも楽しい本だが、この本は書くのも楽しかっただろうと思う。

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