2012年8月30日木曜日

『石の宗教』 五来 重 著

日本人にはもともと自然石を敬ったり、石を積むことで死者を弔ったりといった、石による信仰があったことを様々な事例を引いて主張する本。

著者の主張にはナルホドと思わせる部分が多く、旧来の仏教・神道・民間信仰などという縦割りの研究では見えにくかった日本人の素朴な信仰が透けて見える思いがする。

庚申塔や道祖神が境界や道標となっていることはよく指摘されるが、地蔵も境界を示すものであり、またこれらは男根像でもあったというのは新鮮だった。 この他にも、これまで見過ごされがちであった石塔や石像のもつ民間信仰的な意味合いが説明されており、「石の宗教」という視点は非常に重要だと感じた。

特に前半部分は石の宗教についての概論・体系的なまとめの色彩が強く、説得性がある。しかし、後半になってくると、体系的な説明というより、著者の個人的な経験であったり、「これもある、あれもある」式の叙述が多くなってくる。こういうのも大事だと思う、のような単に重要性を示唆するだけのテーマも散見され、生煮え感は否めない。書き下ろしではなく、『石塔工芸』という雑誌に連載していたものだから、後半はネタ切れというか準備不足があったのかもしれない。

とはいうものの、「石の宗教」という視点の重要性は強調するに足るものだ。今後の研究の進展を期待したい。

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