2018年7月6日金曜日

『連環記』幸田 露伴 著

幸田露伴、最晩年の中編。

慶滋保胤(かもの/よししげの・やすたね)という実在の人物の人生を軸にして、保胤に関わった様々な人間の有様をあたかも玉が連なるように述べてゆく作品である。

それは、史伝のようでもあるし、随筆のようでもある。小説というにはフィクションの要素が少ないけれども、伝記のように忠実に保胤の人生を辿るものではなく、割合に自由に書かれている。作品の素材は伝統的なものであるが、形式としては既存の小説の分類にはうまくあてはまらない。

このように書くと、何か捉えどころのない作品のように思うかも知れない。でもこれは、実際にはぐいぐいと引き込まれてしまう本だ。それというのも、露伴の文体が冴え渡り、磨き抜かれているからである。

そこには、露伴若書きの『五輪塔』がそうであったような、名文・美文をものしてやろうという気負いも脱し、時にはくだけた姿も見せながら和漢を駆け巡る縦横無尽・自由自在な文体が展開されている。

それは、どことなく南方熊楠の、『十二支考』のあの天衣無縫の文体を思い起こさせる。しかし熊楠の文体がまるで龍のように天空にうねるものだとすれば、露伴のそれはあたかも仙境にあるかのように激しいところがなく、いうなれば自然体なのである。漢文や日本古典の重厚な知識を基盤にしつつも、取っつきにくさがなくスッと入ってくる。

ただし岩波文庫旧版(冒頭画像は新版)では、ルビがほとんどないため、若い人には少々難しい漢字があり読むのに苦労するかもしれない。だが無駄に難しい漢字が使われているわけではないので、その難解さも心地よい気がする。

本書は、露伴の到達した言語世界の精華である。

【関連書籍】
『五重塔』幸田 露伴 著
http://shomotsushuyu.blogspot.com/2018/05/blog-post_20.html
幸田露伴の若き日の傑作中編小説。


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