2016年12月31日土曜日

『鹿児島県の歴史 <県史シリーズ (46)>』原口 虎雄 著

鹿児島県の歴史を簡潔にまとめる本。

著者の原口虎雄氏の専門は日本近代史、特に鹿児島の近代史に詳しい。本書執筆の時点で、鹿児島を代表する歴史家だったと思う。

本書は、古代から現代までの鹿児島県(旧日向国=宮崎県の一部を含む)の歴史を編年的に記述し、年表や各種データなどかなり多くの参考資料を巻末に備えたものである。

古代については、教科書的なものでわかりやすく、また薩摩国の特色が理解できるもので、こうした概説としてはよく出来ていると思う。

中世については、かなり分かりづらい。戦国時代の三国(薩摩・大隅・日向)の群雄割拠の様子は相当に複雑であるから、分かりづらいのもしょうがないかもしれないが、それにしても年表をそのままなぞりながら書いているような調子であり、ポイントが不明確で頭の中がこんがらがった。この部分については通説をコンパクトにまとめることが腐心されたような形跡があるが、思い切って簡略化するか、逆に著者なりの見方で語ってもよかったのではないかと思う。

著者の専門である近世、特に幕末に関しては、ちょっと簡潔すぎる。著者自身が「あとがき」で「近世から維新のあたりを精細に書き、それ以前を簡略にすればよかったと思う」と書いている。とはいえ、鹿児島の維新の歴史は中央政権への影響は甚大であるが、実は鹿児島県の現代にさほどの影響を与えていないわけだから、本書の方針は理解できるものだと思う。だが中央からの維新の歴史では語られない、鹿児島にとっての明治維新がもっと克明に描かれていたら、もっと面白い歴史書になっていただろう。

近世についてはちょっと物足りないが、気軽に読める鹿児島県の通史。

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