2017年10月18日水曜日

『鹿児島藩の廃仏毀釈』名越 護 著

鹿児島の廃仏毀釈の実態について、郷土資料を中心にまとめた本。

鹿児島藩は苛烈な廃仏毀釈を行い、藩内の全ての寺を廃止し、全ての僧侶を還俗(僧侶でなくなること)させた。本書は、このような徹底的な廃仏毀釈について、各市町村の郷土誌を参照することによって実態をまとめている。著者はこれに加えて、気になった廃寺についてはフィールドワークを行っているが、基本的には研究書ではなくて、一般向けの概要説明の本である。

本書の特色としては、廃仏毀釈の関連本はお寺関係者が書いていることが多いのに、本書の著者は元ジャーナリスト(南日本新聞社)であることで、仏教を擁護しようとか、神道を誹謗しようとかいう意図がなく、できごとを淡々と語っていることである。廃仏毀釈についてこのように淡々と語っている本は珍しい。

内容としても、廃仏に至る背景、”お手本”となった水戸藩での廃仏毀釈の概要、腐敗していた一部の僧侶の話なども含まれており、廃仏毀釈とはなんだったのか多面的に摑める。ただし本書の中心は個別のお寺がどのように廃仏されたのかというケーススタディにあって、実際にどういう政治的プロセスによって何が決まり、どう実行されたのかということは必ずしもはっきりとは書かれていない。

とはいえ、廃仏毀釈については残っている公式資料はほとんどなく、地元の口伝に頼る他ない上、実行した人々がほとんど西南戦争で死んでしまっているのだからしょうがないことだろう。ただ、実質的な責任者である桂久武(家老)の話や、記録を残している市来四郎(島津久光の側近)についてはもうちょっと深く記述してほしかったと思った。

また、ちょっと気になったのは、郷土誌を参照しているにも関わらず、それが巻末の参考文献にちゃんと取り上げられていないことである(『各市町村誌』としか書いていない)。文中には「『○○町郷土誌』によれば」などと書かれているにしても、何度も郷土誌を発行している自治体もあるので、後々に検証しようと思った時にやはりしっかりと文献情報を書いておく必要はあると思う。

やや概略的すぎるきらいはあるものの、鹿児島の廃仏毀釈について総合的にまとめられたわかりやすい本。

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