2013年4月16日火曜日

『日羅伝』台明寺 岩人 著

仏教公伝のころ、日本から百済に渡って高官に上り詰め、帰国し暗殺された日羅についての伝記的小説。

南九州に多くの事績を残す日羅について興味を持ち、少し勉強してみようと本書をノンフィクションのつもりで手に取ったら、実は小説だった。

というわけでところどころ飛ばしながら読んだのだが、小説としての出来は正直イマイチである。

難点を挙げれば、まずは小説としてのドラマ性がなく、年表風に日羅の生涯をたどるだけという筋が退屈である。そして文章表現の幅が乏しく、説明的・事務的な表現が多い。登場人物もどことなく平坦な印象で、いかにも作り物という感じがぬぐえない。味方の善人と敵方の悪人という構図も浅薄だ。

また、一番気になったのは時代考証が不十分であることだ。本書では宴会の場面が数回出てくるが、当時は今のようなアルコールはなく、酔っ払うまで酒を飲むことは考えられないのに、ほとんど現在と同じような宴会描写となっている。 さらに、百済や新羅、そして梁との交渉の場面において、通訳を通さずに会話がなされている点も気になる。当時の国際間の意思疎通は漢文による筆談だったと思われるので、リアリティに欠ける。

さらには、本書の本質とも言える日羅の情報量自体も多くない。日羅に関しては日本書紀以外の情報源が乏しいので、伝記的小説を書こうとすればどうしても日本書紀の内容を潤色するだけになってしまうのだろうが、このレベルであればわざわざ小説に仕立てる必要はなく、単に伝記(ノンフィクション)に留めてよかったのではないかと思う。

ただ、作者の気持ちになってみると、日羅の研究者でもない人間が伝記を書くことを躊躇う部分があったのだろうし、日羅をもっと多くの人に注目して欲しいという思いから気軽な小説という形をとったのだろう。しかしこの出来では、本書をきっかけに日羅に興味を持つ人は少ないと思う。

とはいうものの、本書には一つ救いがあって、巻末にある日羅に関わりある旧跡や神社仏閣の写真付きリストは貴重だ。著者自身が訪れた場所らしいが、こうした地味なフィールドワークをして本書を書いたというのは実直で好感が持てる。日羅は日本に与えた影響という点で謎が多く、探求しがいのあるテーマと思われるので、本書をかなり否定的に紹介したけれども、より注目が集まって欲しいと思う。

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