2016年6月21日火曜日

『南のくにの焼酎文化』豊田 謙二 著

鹿児島の焼酎のあゆみを明治期から説く本。

著者の豊田謙二は福岡県立大学教授(専門は社会政策および地域づくり。執筆当時)。前職の鹿児島国際大学教授であったときに調査した内容を元に書いたのが本書のようだ。

本書は、南九州の焼酎文化そのものについてはさほど詳しく書いていない。むしろ、その焼酎文化が生まれた歴史的経緯に重きを置いていて、特に明治・大正期の酒税(酒造税)と税務署による酒造所の整理がその成立に大きな影響を及ぼしているという立場である。

酒造税は明治国家の税収の柱であったので、焼酎の税制を巡る国家と地域の対立は今では考えられないくらい鋭いものがあったらしく、著者は「西南の役が明治国家への[鹿児島の]最初の対決とすれば、税務当局との衝突は第二の対決とでも言えようか」と述べている。

私の興味を引いたのは、鹿児島の伝統的杜氏集団である黒瀬杜氏・阿多杜氏の動向をかなり詳しく追っていることで、その黎明から近年に至るまでの雰囲気を摑むことができた。黒瀬杜氏などはよく名前を聞くが、実際どれくらいの数が県内の酒造メーカーに行っていたのか知らなかったので、具体的な人数までわかり大変参考になった(これが、著者が鹿児島国際大学時代にやった調査に基づくものらしい)。

また、本書では奄美の黒糖焼酎についても1章が設けられている。私も知らなかったのだが、原則としてサトウキビで作る蒸留酒は税法上は「ラム」であるが、奄美に限っては、黒糖で作る蒸留酒を奄美振興の一環としてこれを「焼酎」として扱う特例措置がなされているということである。もちろん本土においても黒糖焼酎は造れるのだが、その際には「ラム」としての高い税金を支払わねばならないのである。

この他、近年の焼酎を巡る状況を主に統計面で辿り、宮崎県の焼酎の状況を紹介し、軽い提言みたいなものをして本書は終わっている。

本書は、焼酎のうんちく的なものはほとんど出てこず、一般には閑却されがちな税務当局の動きのような業界的なところを丁寧に追っており、業界史を繙くものとして好感を持った。編集は若干散漫なところがあり、話が飛びがちなのはちょっと気になったが全体としては読みやすい。

あまり顧みられない鹿児島の焼酎業界史を繙く真面目な本。

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