2015年7月28日火曜日

『渡辺芳則組長が語った「山口組経営学」』溝口 敦 著

山口組五代目組長 渡辺芳則にインタビューした本。

渡辺は山口組組長としては異色の人物。先代の指名ではなく幹部の合議で組長に就任したし、少年時代もいわゆるワルではなく、少年院にも行っていない。賭け事はしないし、親はカタギで親との関係も良好(家庭に問題を抱えた人間がヤクザの道に入ることが多い)。そして山口組としてはヨソ者となる関東の出身。

本書は、「組長が語った山口組経営学」を謳っているが、実際には渡辺が組長に就任するまでの話がほとんどで、組長時代のことについては後日談的に語られるに過ぎない。

何しろ渡辺が組長を務める間には、暴力団対策法が施行された上にバブル後の不況時代でもあり、暴力団の経営は思わしくなかった。不況であったことと、暴力団が広域暴力団に集約されていく趨勢から、その間も山口組の団員だけは増え続け4万人以上になったのだが、シノギ(仕事)の減少や抗争の禁止などから組織が停滞して活力が失われた。そのため渡辺は事実上クーデターの形で司忍へと組長の座を明け渡すことになったのだった。

そういうことから、本書は「渡辺の「山口組経営学」は結果的に敗北した」と結ばれている。

「ナントカ経営学」というような本は、基本的に成功者が経営哲学を語るという体のものがほとんどだろう。それが本書は逆で、結果的に敗北したものが(未だ敗北していない段階で)語っているという点が一つの価値かと思う。なお内容は経営哲学を語るというようなものではなく、基本的には渡辺がいかにして山口組で上り詰めたか、という成り上がりストーリーになっている。

その言葉の端々に窺える組織論や人生論は、意外と(いい意味で)普通で、カタギの人間とそれほど変わったところがない。ある意味で暴力団というより実務家風な感じがした。だがその人間が、結果的にはクーデターで追い落とされているわけなので、やはり極道のトップは実務家では務まらなかったということなのだろうか。

ところで私は、ヤクザは日本社会を写す鏡だと思っている。ヤクザ組織は日本社会のいいところも悪いところも増幅して具現化したような存在である。そういう観点で見てみれば、渡辺の敗北もなんとなく分かる気がする。日本社会では、実務家はトップにいてはならないのである。

書名と内容はちょっと食い違っているが、暴力団の組織に関心がある人には楽しめる本。

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