2013年10月8日火曜日

『日本の歴史をよみなおす(全)』 網野 善彦 著

室町時代から江戸時代にかけて、非人とか悪党と呼ばれた人たちが金融・商業など非農業的な産業を担っていたことの重要性を強調する本。

従前のイメージでは、江戸時代は自給自足的な農本主義の時代と思われており、農業以外の産業はあまり注目されてこなかったため、例えば山奥にあるとか、水田の適地がないというような村は貧しかったに違いないと思いがちだったのであるが、著者はそれは正しくないという。江戸時代においても、金融や商業、そして海運といった産業は重要な役割をになっており、都市的な場とそのネットワークは日本全体に広がっていたため、山奥の村が意外に流通の拠点になっていたり、耕地をほとんど持たない人が大変裕福に暮らしていたりした。

また、非人は次第に被差別階級化していったのであるが、これは非人が貧しく汚らしかったということではなく、むしろ金融や商業によって裕福だったため、その反発もあったのではないかと示唆する。このあたりは欧州におけるユダヤ人の被差別の歴史も想起させられるところだ。

本書は、こうした著者の提唱する新しい江戸時代のイメージを若い世代に向けて講演したものが元となっていて、あまり込み入った話はなく、江戸時代の金融・商業の重要性を例証するようなものの列挙といった側面が強い。

そして読者として不満なことは、それらが重要とはいっても、何においてどのように重要なのか、という点についてあまり明快に語られないことだ。最後の方では、
そのように考えてみたときに、日本の近世社会、あるいは中世後期から江戸時代にかけての時代がどのように見えてくるか、またそれをどのように規定すべきかについては、まったくの未知数、未開拓の状態で、私にもいまは積極的な意見を出すことはできません。(本書p.401)
と著者自身が述べており、「だから何?」という状態ではある。つまり、非人や悪党が担う金融や商業といったものが、どのように重要かはわからないが、重要に違いない、というのが著者の信念なのである。それは理解するが、そういう視点で見たときに日本の歴史がどう再解釈されうるのか、という可能性すら提示できないのは残念だ。『日本の歴史を読みなおす』というタイトルも名折れで、『読みなおしたい』くらいのニュアンスが適当であろう。

近世社会の商業主義について新たなイメージを提供するが、それ以上に踏み込んだ歴史観については黙して語らない本。

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