2012年9月1日土曜日

『生活の世界歴史 (2) 黄土を拓いた人びと』 三田村 泰助 著

明代を中心に、中国大陸の文明論をたくさんの小ネタを用いていろいろな角度から展開する本。

「黄土を拓いた人々」の副題は紛らわしい。実際には、開墾を進めた農民の話は多くないし、むしろ歴代中国王朝の税収の約半分は塩の専売による収入であった、などという話や、穀物生産の中心が地味が豊かな江南であったことなどが記述されており、どちらかというと河北的なものである「黄土」を副題に持ってきた意図が不明である。

明代を中心に、とはいいながらも実際に取り上げられる時代は古代から近代にも及び、よく言えば縦横に、悪く言えば散漫に文明論が語られる。テーマも、南北の対照的な性格、支配者の原理、反乱と革命、都市と農村、東洋的「婦道」など多岐にわたる。体系的な論考というより、様々なテーマのもとに中国文明の特質を考えるという調子で、読書中はなんだか「いつ本題に入るの?」と隔靴掻痒な感じがしたが、それぞれのテーマは面白く、これはこれでよかったと思う。

そういう意味では要約が難しい本で、とにかく小ネタをたくさん披瀝している。例えば、「極楽往生をねがう阿弥陀浄土が、柔弱な南人に支持されるに対し、現世の幸福をかちとる弥勒浄土が、北人の気質に合った(p205)」という記載など、簡単に書いてあるが、阿弥陀と弥勒という類似しつつ差異のある神格が平行して信仰される理由を明快に説明しており、ナルホドと唸らされた。

他にも、皇帝の朝はやたら早かったという話や、中国の経験した4度のファッション革命、中国法の集大成としての大明律の成立、漢代の古典儒教は北人的だが、近代合理主義の上に立つ新儒教主義は南人的であるなど、面白い話題が多い。

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