ご存じのシリーズ。江南の地をゆく司馬遼太郎のエッセイ。
江南地方は日本文化に非常に大きな影響を与えているが、具体的にはよくわからない部分が大きい。華北的な儒教や律令といった政治の道具と違って、江南の地からもたらされたものは文化であるために、その有り様は茫洋としている。
元より「街道をゆく」は気軽なエッセイで、体系的な考察ではないし、ときに見聞の記録ですらない。しばしば、「ところで…」と脱線してしまうし、いろいろ準備しているとはいえ、数日間の強行日程で深い考察などできるはずもない。よって、その茫洋とした江南の文化を本書で知ることは不可能で、ただ少し垣間見ることができるだけに過ぎない。
「街道をゆく」はおそらく20冊以上読んでいるが、やはり中国については現地の事前知識が少ないためか本書にはおざなり感がある。読んでいて退屈な部分もある。いろいろとヒントや小ネタが満載なので、決して価値の低い本ではないけれども、紀行文として読むと少し物足りない。
日本国内の「街道をゆく」であれば、「もしかしたら〜は〜だったのかもしれない」というような、良くも悪くも自由な発想で「司馬史観」が展開されるわけだが、本書の場合は背景の解説のみに止まっている部分が多く、それが退屈なのかもしれない。悪い本ではないし、著者のファンならば全く問題なく楽しめると思うが、同シリーズの中においては凡庸な本。
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