有機栽培を中心にしながら、農業一般に必要となる理論的基礎が学べる本。
有機栽培、有機農法というと「有機栽培の野菜で病気がなおった!」とか「人柄まで明るくなった!」といった迷信的な喧伝がなされることが多く、有機農法を勧める本においても慣行農法の悪口ばかり書いてあり、有機農法がなぜよいのか? という根本がまったく書かれていない本が多い。
本書はこうした凡百の有機栽培本とは一線を画し、まず有機栽培とは何かを明確化した上で、その利点、欠点を冷静に評価する。著者は土壌学、微生物学の専門家であるため施肥の話が多く、特に後半は施肥の応用的知識が多くなってくる。それは「基礎知識」から逸脱している部分もあるが、全体的なバランスはよい。ただ、病害虫についてはほとんど触れずに「有機栽培では少なくとも病害は少ないといえるかもしれない(p.204)」だけで済ますのはやや安直すぎる感がある。病害虫の防除は基本的に輪作や混作で対処すべきといったことは書かれるが、「基礎知識」を銘打つ以上は体系的に述べるべきだ。
とはいえ、書かれている事項は有機栽培のみならず、作物生産を深く理解するためには重要なことばかりで、何度もナルホドと唸らされた。安易なハウツーではなく「基礎知識」を提供することを主眼においているので、これを読んで有機栽培ができるようになるという本ではないが、理論的基礎を学ぶためには格好の書である。
また、有機栽培に取り組みたいという人でなくても、第1章「持続可能な有機農業とは」は読む価値がある。有機農業とは一体何なのか、それが明確に説明されることは意外に少ないので、ここだけでも本書の価値は高いといえる。
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