独自の視点から、日本文化の形成に大きな役割を果たした先住民(縄文人)や海洋民、焼畑耕作、秦人などについて語る本。
本書は宮本常一の遺稿であって、著者自身がまとめたものではなく、未完成なものだ。本書で提示されたアイデアは、さらに深められ、体系的な文化論としてまとめられるはずだった。その意味では、本書はその壮大な構想の一端だけで終わってしまっている感があり、物足りない部分がある。
しかし、日本中を歩いた著者の確かな目は、記紀や万葉集といった文献に対しても冴え渡っており、そのアイデアには興奮させられる。政治史ではなく、技術・生産・生活の歴史に注目してきた著者ならではの着眼点が素晴らしい。
特に興味深かったのは、海洋民が高床の住居をもたらしたとする説や、焼畑耕作の実際である。海洋民については、近年研究が盛んになってきているが、焼畑耕作についてはこのような視点での研究は未だに多くない。本書においても、山間に住む人々の重要な生産手段だったのではないか、と示唆するだけで、だから何? という部分もなくはない。しかし、東アジアの中の日本という視座で考えるならば、海洋民とともに焼畑耕作の伝播と発展は極めて重要であり、今後のさらなる研究が待たれる。
ともかく、この研究がまとまらないうちに著者が鬼籍に入ったことは残念でならない。本来なら著者のライフワークの集大成となるはずの本だったが、本書は基本的アイデアの(一部の)提示に止まる。それにも関わらず、本書は日本文化の形成ということを考える上での必読書であろう。
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