2020年1月26日日曜日

『大英博物館展: 100のモノが語る世界の歴史』

同名の博物館展の図録。

「100のモノが語る世界の歴史」は、BBCと大英博物館が制作した全100回のラジオ番組で、イギリスでは社会現象となるほど人気を博した。これはBBCラジオの記念碑的作品となり、博物館長ニール・マクレガー著による同名書籍も発売された。

その書籍は日本でも翻訳出版され、さらに実際に3館で展覧会も開催された。本書はその図録である。図録というものは普通は写真がメインで解説は巻末モノクロページの方にまとまっているものだが、本書は展覧会図録でありながら普通の読み物として通読できるようになっていて、写真と解説がセットになった構成である。これは嬉しい。

同名書籍(日本語訳は、筑摩選書で3巻分ある)に比べ、写真がメインで解説が簡略であり、概観にはちょうどよい。たぶん1時間もあれば読める。逆に言えば、原著の方では縦横無尽に展開していた解説が、かなり素っ気ないものになっているので、「モノが語る世界の歴史」というほどの深みはないようだ。

それに、同名書籍とは取り上げられた100のモノがかなり違っている(計数していないが4分の1くらい違っている)。大英博物館から借りることができなかったものがあったのかもしれない。 それはそれでよいが、そのことがしっかり説明されていないのは不誠実な感じがした。

「100のモノが語る世界の歴史」で取り上げられているのは、立派なものというよりも、世界の歴史を語るのに象徴的な役割を果たす品である。例えば日本のものとしては、羽黒山(山形県)の神社の池の底から発見された銅鏡が取り上げられている(他に縄文土器、柿右衛門、北斎)。しかしこれは特に立派な銅鏡だということではなく、日本人の鏡に対する信仰、奉納品を池に投げ入れることの意味、平安期の日本人の美意識など様々な歴史語りを呼び起こすために選ばれているのである。展覧会図録ではそうした内容が捨象されるのはしょうがないとしても、「モノが語る世界の歴史」としては解説が2倍くらい欲しかったというのが実感だ。

ところで本書には一つのモノごとにキャッチコピーがついているが、これが全体の内容にそぐわないほど軽薄で、ない方がよかった。また軽薄なだけでなく内容的にも不正確な感じがした。例えば先ほどの銅鏡には「独立独歩の平安文化」というキャッチコピーがあるが、平安時代の文化を「独立独歩(海外からの影響がない日本独自の、という意味らしい)」と表現するのはどうかと思う。

編集面ではちょっと物足りないが、気軽に読んで見て楽しめる本。

【関連書籍】
『砂糖の世界史』川北 稔 著
https://shomotsushuyu.blogspot.com/2013/05/blog-post_5316.html
砂糖の生産と消費の動向を巡って世界史を物語る本。


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