板碑を中心として石塔の世界を紹介する本。
日本では大規模な石造構造物はほとんど存在していないが、石塔については数多く残っており、特にそれが庶民的なものであるだけに当時の信仰を窺わせる格好の遺物となっている。
ではそうした石塔はどのように造立されたか。石塔と言えば五輪塔、宝篋印塔、 層塔、宝塔、多宝塔、無縫塔、板碑があるが、これらは層塔を除いて平安時代後期から鎌倉時代初期、1200年前後の70年間ほどに現れる。そしてそれまでの仏塔とは、仏舎利を安置する礼拝の対象であったが、仏塔は墓塔の性格を持つようになるのである。
さらにこれらの石塔は最初は社会の上流の人々が極楽往生を願って造立するものであったが、15世紀半ばにはそれが農民や町人など多様な人々によって、しかも現世利益など多様な願いを託して作られるようになった。例えば「一石五輪塔」がそういうもので、これは一つの石を五輪塔の形に刻んだもので、製造コストを抑えた既製品が利用されていたそうだ。
著者はそうした石塔の中でも特に板碑に関心を持ち、板碑についてやや詳しく紹介している。板碑は関東で多く作られたもので、本書ではいくつかの板碑についてケーススタディ的に取り上げられている。「誰が何のために造立したのか」「当初の姿はどうだったのか」といったことを一つひとつ探っていくことで、当時の信仰や社会のあり方を知ることができるのである。
板碑の世界の手軽な入門書。
【関連書籍の読書メモ】
『中世の板碑文化』播磨 定男 著
http://shomotsushuyu.blogspot.com/2020/09/blog-post_24.html
板碑の世界を概観する本。板碑の世界を手軽に俯瞰できる良書。
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