古代寺院の瓦について語る本。
著者の森 郁夫氏は古代寺院の研究者、特にその瓦の専門家であり、古代寺院の瓦を読み解く著書を何冊も書いている。本書はその嚆矢となるもので(本書のどこにも書いていないがたぶん一般向けとしては処女作)、毎日新聞奈良地方版に連載したものをまとめたものである。
その内容は、古代寺院とその瓦についてひたすら取り上げていくというかなり地味なものである。古代においても瓦の様式はだんだんと移り変わっていったのであるが、いかんせん瓦であるから大雑把に見れば大同小異である。しかも体系的に古代の瓦について述べるのではなくて、寺院を次々取り上げ、瓦のデザインの変遷を散発的に述べるので、いささか単調で内容を十分に理解できたとは言い難い。
しかし瓦の世界自体には非常に興味を持った。瓦は、仏教とほぼ同時(仏教伝来から約50年後)に、寺院建築として日本に入ってきた。当初瓦葺きの建物は寺院以外にはなく、それ以降も(近世に至るまで)とびきり高級な建物を別とすれば寺院以外にはほとんど使われなかった。
そして本書を読みながら気づいたことだが、瓦は神社建築には(正式には)採用されなかった。瓦は建材として非常に優秀であり、1400年前の飛鳥寺造営時の瓦は、奈良元興寺極楽坊の本堂と禅堂に今(本書執筆時)でも葺かれているのである。それほど耐久性があり優秀な建材であるにも関わらず、ついに神社が瓦を葺くことをしなかったのは、瓦と仏教の結びつきが非常に強かったためではないかと思われる。
そして、瓦はかなり重いものであるため、瓦葺きにするためには建物を最初から丈夫に作っておかなければならない。瓦葺き寺院は最初から立派な建物として存在した。質朴質素な寺院が徐々に華麗重厚になっていったのではなく、最初から壮麗な伽藍が輸入されたのである。瓦の技術者は「瓦博士」と呼ばれた。飛鳥時代、日本は仏教を中心とする外来文明をそのまま一式導入しようとしたが、その象徴が瓦建築であったといえないこともない。
本書は、先述したとおりいささか単調な本であるが、瓦を通して様々なことが考察され、当時の社会を具体的に想像させる事例が豊富に取り上げられている。ワクワクしながら読むような知的興奮はないとしても、古代瓦の世界への誘いにはなっている。同著者の『一瓦一説 瓦からみる日本古代史』なども繙いてみたいと思った。
古代の瓦への扉を開く本。
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