日本全国にありふれているのに、基本的な研究がほとんど進んでいない五輪塔についてまとめられた稀有な本。
五輪塔は平安時代末期以降に非常に流行した墓石形態であるが、その形態や信仰についてのまとまった書籍は少ない。本書は論文集ではあるが、分量的にはほとんど編著者の論考が占め、他の著者の論文は前菜として掲げられている程度である。
前菜部分の論文は、一般向けというより研究者が限られた範囲の専門的事項について語っているという感じであるが、あまり難しいものではなく、さらりと読める。後半の編著者の論考も、研究者向きに語っているのだが、割合に総論的な内容であるために一般にも十分に理解できるだろう。
ただし、論考が進むにつれ、「~かもしれない」式の憶測が多くなる印象があり、悪く言えば編著者の空想の要素が強くなっている感を受けた。
どうして五輪塔が非常に流行したのかという疑問に対しては、要は製作が容易だったからだという見解が表明されており、これには膝を打つ思いがした。単純なことであるが、このような基本的なことを指摘しているだけでも本書の価値はある。
なお、積石信仰のような民間信仰との繋がりも考究してもらいたかったが、本書ではインドからの文化伝播の視点で五輪塔の起源が考えられており、その点は物足りない。また、起源を考えるなら早期五輪塔の地域分布を分析するといったことも必要な気がするが、そういったこともなされていない。
論文集であり、出版年も古く、広く読まれる本ではないが、五輪塔について考える際には座右に置くべき本。
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