猫族の生活についてエッセイ風に述べた本。
本書は、原題”The Tribe of Tiger”(虎の一族)が示すとおり、猫だけでなく広く猫族について様々なエピソードを紹介し、その共通性や相違点について検討しつつ猫族の「生活原理」ともいうべきものを探るものだ。
その第一原理は、猫族はその栄養源を肉のみに負っているということだ。雑食性のクマやイヌと異なり、猫族は肉以外、しかも自ら(か親が)仕留めた獲物の肉以外を食べることはない。それは狩りがうまくいかなければすぐに飢餓状態に陥ってしまう「崖っ縁の生き物」であることを意味する。
そのため、猫族はライオンなどを除いて基本的に単独行動が多い。多くの仲間を維持するためには大量の肉が必要になるから、群れの維持が大変なのである。だから猫族は孤独を好む、気まぐれな動物と思われている。群れの紐帯を重視し調和と統制を好む犬と違って、猫は仲間や飼い主のことをあまり気にしていないと。
しかし著者によればそれは事実ではない。ただ、社会性や愛情の「流儀」が違うだけなのだ。実際、猫族は自らの縄張り内のことを大変気に掛けている。大型猫族(ライオンのような)は、獲物となる動物の群れの構成や弱った個体の有無を常に調べており、おそらく個体を識別している。 また猫族は仲間と無用な争いを避ける、友好を示しながら一定の距離を保つ手法を心得ている。犬のようにベタベタする必要はないから、淡泊だと誤解を受けているだけなのだ。
さらに猫族が肉だけを食料とするハンターだからといって、食べられそうなものをなんでも獲物と見なすわけではない。猫族にとって動物は3つのカテゴリに分けられそうだ。食べものか、敵か仲間か。それは先験的に決まっているのではなく、その動物が食べものとして振る舞うか、敵としか振る舞うか、それとも仲間として振る舞うか、という社会的なコードによるのである。
その一例が本書で最も感動的なエピソードである、ライオンと人間(ブッシュマン)との停戦協定だ。カラハリのライオンは、丸腰に近い人間でも襲わず、家畜も襲わなかった。一方、人間もライオンには敬意を持って接した。人間がライオンに要求を伝えたいときは(例えばそこをどいて欲しいとか)、ライオンに真摯にかつ毅然として語りかけた。こうした流儀は、ブッシュマンとライオンたちの間で何世代にもわたって培われてきた文化であった。人間が武器を持っているから従っていたのではなくて、お互いに敬意を払いながら距離を保つすべが形成されてきたのだ。
だから他の地方ではライオンと人間は敵対的であったし、カラハリでもブッシュマンがいなくなるとその流儀は短い間に廃れ、ライオンとの停戦協定は消えてしまった。ライオンの文化も、人間の文化と同じように儚いものだった。
著者は人類学者。その調査でアフリカに滞在する中でライオンに興味を持ち、また別にピューマや虎とも接する機会があって、さらに自らも猫を飼っていることで、広く猫族に関する話題を集めたのが本書である。であるから、本書はあまり学術的なものではなく、○○から聞いた話、というような体験談も多く楽しく読める。何かを解明するといった本ではなくて、猫族の生き方について再考を催すような本である。
猫族の社会性について考えさせる良書。
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