2019年1月2日水曜日

『日本の古代文化』林屋 辰三郎 著

日本古代史を5つのテーマから語る本。

著者林屋辰三郎は、日本の中世史、特に芸能史の研究で有名であり、その著者が古代文化をどう見ていたのだろうと思い手に取ったのが本書である。

本書には、「杜」「前方後円墳」「伽藍」「国史」「都城」という5つのテーマに基づいて、行きつ戻りつしながら弥生時代後期から平安京遷都までの古代史が記述されている。

「杜」では、 農耕文化の基層としての杜が位置づけられると共に、「倭国大乱」の政治状況が分析される。

「前方後円墳」では、新たに成立した政治権力の象徴として古墳文化が振り返られ、また前方後円墳の形状が楯を模したものであるとする説を支持し、それが停戦の象徴であったと考察されている。またその画期として応神天皇に至る系譜が検討される。さらに、前方後円墳は次第に横穴式古墳へと遷移していくが、その背景として死後の世界の観念の変化が示唆される。

「伽藍」では、新たな国家の枢軸として仏教がどう導入されたかが語られる。「伽藍」は「古墳」を引き継ぐものであった。継体天皇の後に王権が分裂し、欽明天皇と安閑天皇は並立する事態を生じるが、この統一にあたって思想的な支柱となったのが仏教だったのである。

「国史」では、国史編纂の前提としての政治権力の集中、隋や新羅との対外関係、一時代前のものとなりつつあった各氏族との関係を整理し顕彰し位置づけるといった事情が語られる。『古事記』は大伴氏の、『日本書紀』は蘇我氏の記念碑と考えられるという。

「都城」では、古い氏族性を刷新して成立した律令制の象徴として都城が捉えられ、その完成形として左右均斉の平城京が位置づけられる。しかし律令制は徐々に崩壊してゆく。平城京においても藤原氏の氏寺興福寺は意図的に外京に位置し、内京が荒廃していくのと対照的に外京は奈良市街として今日まで生き残った。それは律令制の内実が形無しにされ、氏族制のリバイバルともいえる荘園制に移行していったことの象徴なのであった。

本書の表題は『日本の古代文化』だが、古代文化そのものについて語る本でもない。舞踊や歌、服飾や年中行事といった古代文化についてはほとんど全く触れられない。どちらかというと政治権力史をメインとして、各種の遺物にその痕跡を見ようとする本である。ただし私は古代史についてはさほど詳しくなく前提知識が乏しいため、著者の主張を完全に理解することはできなかった。

文化面に残る古代の権力闘争の痕跡を探る、やや専門的な本。

【関連書籍】
『日本文化の多重構造―アジア的視野から日本文化を再考する』佐々木 高明 著
https://shomotsushuyu.blogspot.com/2017/02/blog-post_26.html
日本文化の基層に存在する多様な文化について述べる。アジアを俯瞰して日本生活文化史を位置づけた非常に内容の濃い本。


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