2018年8月27日月曜日

『羅漢—仏と人の間』梅原 猛 著、井上博道 写真

梅原猛の語る「羅漢の世界」。

本書は、ほぼ半分を占める羅漢の写真と、それに対する著者の記述によって構成される。写真の方は、説明的なものというより、割合に芸術性のある写真が多く、そういう意味では写真集として読めるものだと思う。

その写真に対する著者の記述は、一言でいうと玉石混淆である。体系的に語られることが少ない羅漢であるから、著者の説明はかなり参考になる部分がある一方で、著者の空想(この羅漢さんはきっとこんな人物だったのだろう、というような)が延々と続くような部分もあり、雑誌を眺めるような気分で読むときにはよいが、「羅漢とはなんぞや」という真剣な問題意識を持って読むと肩すかしを食らう。

ちなみに、なぜ羅漢崇拝が起こったのかということについては、「仏教と老荘の結合により生みだされた超人思想、それが十六羅漢の思想であったように思われる」(p.146)としており、「羅漢思想は一種の自由人崇拝である」と言う。

本書の多くの部分が、先ほど述べたように著者の空想に費やされており、あまり真面目に受け取れないのがほとんどだが、最後の木喰上人の羅漢像製作のエピソードについては空想ではありながら説得力があった。それは、木喰上人が十六羅漢像(および釈迦如来像)を彫刻した際、自らの仏化を演出するためにいろいろな仕掛けを自作自演したのではないかとする空想である。木喰上人はこのためにアシタ尊者(十六羅漢の中の一人)を自らに似せて作り、すぐ後に光背を持った自刻像をも作った。これは、木喰上人が生きながらにして即身成仏し、仏となったことを宣言するものだというのである。

著者は、これを「それは確かにペテンにも似ている」としながらも、木喰上人の無邪気な姿を非常に好意的に描いている。この部分は情感がこもっていて、今までさほど興味のなかった木喰上人が急に気になってきた。

なお、本書はあまり有名な本ではないが、梅原猛の最初期の著作の一つであり、その選んだテーマが「羅漢」であったこと自体も興味深かった。

玉石混淆であるが、羅漢をテーマに梅原猛が自由に語る異色の本。

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