明治・大正・昭和初期の鹿児島の新聞記事を眺めて、昔の鹿児島を知る本。
内容は、風俗、行事、興行、天文館の街の様子が中心。新聞記事といっても、政治・経済についてはあまり触れられず、今で言えば「地方欄」に当たる部分からの話題が多い。
本書によって、今では廃れた風習や行事を知ることができた。例えば「加世田参り」。旧暦6月22〜23日にかけて、鹿児島から加世田へと「兵児」たちが駆け抜け、往復20里(80キロ)を競争する行事があったらしい。今で言えばトレイルランみたいなものだろうか。随分過酷な年中行事があったものである。
このほか、鹿児島で最初に自動車が導入された時の話、街道沿いあった松並木が売却された話など、たくさんの些細な話が収録されている。一つひとつの記事は、文庫本1ページ分くらいのもの。著者はそれに対して考察を加えるというでもなし、淡々と記事紹介を行っている。ここに挙げられた記事の数々は、それ自体どうということはないが、当時の社会の雰囲気を如実に伝えるものだと思う。
なお、当時の社会を知るために最も有効なのは、新聞広告を眺めることだと思うが、本書には広告そのものの記事はあまり多くない。もう少し広告そのもの(当時はこんなものの広告がありました、というような)も取り上げたら面白かったと思う。
著者は、高校教諭を経て図書館行政等に携わり、鹿児島県の教育委員長も務めた人。特別なテーマなく興味の赴くままに記事を収録しているので、本書で何が分かるというものでもないが、昔の鹿児島を垣間見る新聞記事が淡々とまとめられた実直な本。
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