2015年11月1日日曜日

『今こそ伝えたい 子どもたちの戦中・戦後 小さな町の出来事と暮らし』 野崎 耕二 著

南さつま市万世に育った著者が、戦中・戦後の出来事を思い出して書いた画文集。

著者の野崎 耕二さんのことは、萬世酒造の展示施設「松鳴館」で知った。松鳴館は基本的には焼酎造りの見学をするところだが、最後のスペースに野崎さんが描いた絵が常設してあったのだ。芸術的にどうこうということはよくわからないが、昔の素朴な暮らしぶりが生き生きと描かれていて、すごく好感を持った(参考:南薩日乗の記事)。

本書は、その野崎さんがかつて執筆した『からいも育ち』という画文集を大幅に増補改訂したものである。私は『からいも育ち』を読んでいないのでどこが増補されているのか正確には分からないが、本書のあとがきによると「戦中・戦後のことを十分に伝えられなかったとの思いを、ずっと抱いてきました」とあるから、多分戦争の話が補われているのではないかと思う。

しかし著者が戦争を体験したのは主に小学校低学年の時で、10歳くらいの時の話なのに、よくここまでいろいろ覚えているものだと感心する。しかもエピソード的に覚えているだけでなく、記憶から呼び起こして絵まで描いているわけで、それだけ戦争というものが強く記憶に残る出来事だったのかもしれない。

本書では、「小さな町の出来事」が全て一人の少年(だった人)の視点で書かれている。戦争への批判もあるにはあるがそれは思い返してみればの話で、子どもの頃は意外と何もわかっていなかったということが率直に語られる。特攻というものを知らされずに学校で特攻隊の見送りをしたエピソードや、戦争が唐突に終わっていたという話(ラジオがなかったので玉音放送を聞いた人はほとんどいなかった)は当時の実情の象徴だと思った。

そしてそういう深刻な話があるかと思えば、かなりの紙幅を割いて当時興じた遊びの数々もいろいろと説明されている。松林で遊んだ思い出、虫や小動物を獲った思い出、大勢で遊んだ思い出、全てみずみずしく語られて、他人事ながらノスタルジックな気持ちになった。

それから、個人的な関心としては、やはり昔の農業のことがとても気になった。サツマイモ、小麦、大麦、米、カボチャといったものの栽 培方法がところどころで書かれていて興味深い。現在と違う部分もあれば、同じ部分もある。特にカボチャの立体栽培をしているのは大変気になるところで、な ぜ昔の人は敢えて立体栽培をしていたのか非常に疑問である。

万世の戦中・戦後を、一人の少年とともに追体験する本。

3 件のコメント:

  1. 私は万世出身なので、小学生の時に野崎耕二さんは何度か授業で取り上げて学びましたね。
    小学生ながら不自由な体で一日一絵を続けられてるとは凄いなぁと思いさせられました!
    万世も頻繁に空襲で被害にあったと祖母が話してくれた事を思い出します。
    特攻基地跡は万世の人も関心が少なく認識すらされてない状況です。
    負の遺産ですが、過去から学べる貴重なものなので色んな形で活用して欲しいものです!

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    1. コメントありがとうございます!
      最近、万世の特攻基地跡にもだんだん関心があつまってきつつあります。戦争の記憶も、ようやくお年寄りの口から語られ始めたのではないかという気がしていますし、私も微力ながら、その聞き書きをやっていきたいと思っています! 負の遺産の活用、大事ですよね。

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  2. そうなんですね。是非多くの方々に戦時中の状況を知って頂いて後世に語り継がれるきっかけの地となって欲しいですね!
    知覧の特攻基地跡は有名ですが、万世の飛行場跡は地元の人も全く関心がありませんでしたからね。
    自分も含めてなんですが(-.-)
    若い尊い命を国の為、国民の為に捧げて飛び立った特攻隊員やご家族の気持ちを思うと言葉になりません。国際政治が乱れに乱れ混乱している今の時代だからこそ、過去から学び考える場として貴重な遺産となるのではないかと思います。

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