著者は世界的な一流大学であるエール大学を出て清水建設に入社、その後なんと甑島に移住し漁師の仕事をしばらくした後、ハーバード大学と京都大学の大学院で民俗学を学び、1998年から川辺の土喰(つちくれ)集落というところに移り住んだ。翻訳や論文の編集、講演で生計を立てながら、この限界集落の小組合長(自治会長)も務めるという、なんというか超弩級の変わりモノである。
その内容は、変わりモノの著者自身に関する部分はあまりなく、集落の日々の様子、おばあちゃんやおじいちゃんから聞いた話、そして後半は、集落の人間がどう死んでいったかというもので、特にこれというところはないのに引き込まれる。著者の人を見る暖かい目、それに細やかな観察眼、深い思索に裏打ちされながらも素朴にまとめられた文章が心地よい。
この本には、教訓めいた部分はほとんどなく、日本の片隅で静かに滅びゆく小さな集落の日常が淡々と描かれるだけである。それなのに、人間にとってとても普遍的な何かが伝わってくるような気がする。それが何なのか、明確に述べるのは難しい。内容を要約できる本ではなく、完成された文学のように、何も言っていないのに何か大事なことが述べられている本。
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