2013年6月4日火曜日

『僧侶と海商たちの東シナ海』 榎本 渉 著

9-14世紀の日本と中国大陸間の僧侶の動きを追った本。

私自身の興味としては、僧侶よりむしろ海商の方にあり、この期間に海商たちが東シナ海においてどのような活動を繰り広げていたのか、という疑問を念頭に置いて読み始めたのであるが、実際には海商についての記載は少ない。

著者はもともと仏教史の専門家ではなかったが、必要に迫られて仏教側の史料を読み込むうち、ちゃんとした記録がたくさん残っていてこれをその他の史料と対照することでより具体的な渡航の姿がわかるということに気づき、次第に仏教史側へと傾いていった。本書では、むしろ僧侶の動きが話の筋になっており、海商はそれにスパイスを添える存在に過ぎない。

そして本書で述べられる僧侶と海商の関係を一言で要約すれば、「遣唐使以降は、日中間には海商の日常的往来があり、それによって僧侶が移動することができた。また僧侶は海商経由で大陸の情報を入れることも多かった」となるだろう。つまり、海商は僧侶の渡航のツールとしてしか描かれていないのである。

そういうことで、本書では、あくまでも僧侶が主人公であるために、私が期待していたような海商の実態はほとんどわからなかったし、僧侶に関する記載もかなりマニアックなことが多く、著者自身の研究ノート的な、やや散漫な記載も見受けられる。素人考えだが、著者の専門の通り、海商の動向を中心に据えつつ、僧侶を脇役にして描いた方が、完成度の高い本になったような気がしてならない。

僧侶の渡航の実態については詳細な記述があるので、そこを知りたい向きにはよいだろうが、タイトルが内容と乖離している本。

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