2018年6月18日月曜日

『日本仏教史入門』田村 芳朗 著

日本仏教史を日本文化論と絡めて概説した本。

日本仏教史としての本書の特色は、第1に教学史にあまり深く立ち入っていないことである。例えば、南都六宗の説明は簡略だし、曹洞宗と臨済宗の違いはほとんど語られていない。

第2に、その代わり社会状況や文芸、民間信仰など仏教の周辺についてはやや詳しく述べられており、完結した仏教史ではなく、歴史の中の仏教の動きについて理解を深められる。

そして第3に、日本にとって仏教は外来思想として受容されたものであるから、それをどう消化し、日本流なものとして再創造したか、という観点で仏教史が記述されているということだ。よって、本書には一種の日本文化論の側面がある。

通読した感想としては、まず仏教史としては非常に読みやすいと感じた。煩瑣な教学史を大胆に捨象しているので退屈な部分がなく、時代毎の仏教の趨勢を理解するのによい。また仏教の周辺についての記載は、近現代の新興宗教についてなどは少し詳しすぎる感じもしたが、全体的に見れば要を得ており、気づかされる点も多かった。

一方、本書には著者なりの仏教各宗派・各思潮への評価が割と出ているところがあり、それについては疑問を抱く点もあった。例えば、著者は天台本覚思想を日本仏教の一つの到達点として「これは仏教思想史上のみならず世界哲学史上における究極・最高の哲理であるといえよう」と称揚するのであるが、なぜそのように評価できるのか、その理由は全く書かれていない。

というのは、元来の仏教において悟りというものは理知的に到達するもののはずなのに、本覚思想ではあるがままの姿が肯定され、後には「山川草木悉有仏性」などといって自然物すらもそのままで仏となりうるという極論まで生んだ。確かに仏教の日本化の行き着くところであり、一つの到達点であるとは思うが、それを究極・最高の哲理とまで言えるかどうか。例えば、この思想でどれだけの人が救われたというのか、社会にどれだけよい影響を及ぼしたというのか。宗教である以上、そうした観点から評価を受けてしかるべきであるが、本書にそうした観点はなくやや一方的な記述となっておりあまり説得的ではなかった。

また、著者が非常に重視している日蓮宗・日蓮主義については詳しい一方、浄土教系については記述が薄いのも気になった点である。信徒数だけでいえば、現代日本では浄土真宗が最も多いと思うので、浄土教系の動きはもう少し詳述してもよかったと思う。

全体的に「入門」ということで、かなり略述している部分があるので物足りない点もあるものの、巻末の日本仏教史年表はそれを補う力作で非常に参考になる。年表だから記載は簡潔だが内容は豊富で、仏教史上の主要な著作も網羅されており、この年表だけでも本書の価値があると思う。

簡略すぎるきらいはあるが、その分とても読みやすく特に巻末の年表が素晴らしい本。


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