2015年9月24日木曜日

『万能人とメディチ家の世紀―ルネサンス再考』池上 俊一 著

フィレンツェの万能人アルベルティとメディチ家のあれこれを述べてルネサンスの雰囲気を説明する本。

本書の内容はあまりまとまりがない。タイトルが「万能人とメディチ家の世紀」であるが、万能人の活躍について体系的に述べるでもないし、メディチ家の繁栄について詳しい説明があるわけでもない。ただ万能人とかメディチ家といったわかりやすい言葉を軸にして著者の考える「ルネサンス」をとりとめもなく語っていくというようなスタイルである。

もちろん章立てはちゃんとあるし、著者なりの主張もあるのだが、それが体系的に示されるということがなくて、書きたいことを書いているという感じである。

また文章もよくない。悪い意味で「文学的」であり、文飾には大変力が入っているが、それが虚飾になってしまっている。表現に具体性がなく理念的・概念的・総論的な説明が多い。大体の雰囲気を摑もうという本だから、それでいいのかもしれないが私には物足りなかった。

著者がのお気に入りの万能人といえるアルベルティ(レオン・バティスタ・アルベルティ)に関してはかなり詳しい説明がある。伝記的な情報だけでなく、アルベルティの著作の紹介も1次資料をちゃんと読み込んで真面目に書いている印象でそこは好感を持つ。

でもやはり書きたいことを書いている、というようなつまみ食い感があるのは否めない。アルベルティがどうして重要なのか、というのが最後までよくわからなかった。その後のルネサンスの「万能人」の原型になったのがアルベルティだ、というのがポイントなんだろうか? それとも様々な著作を通じ後世の人に影響を与えたということ? いろいろ書かれてはいるものの何だか頭にスッキリと入ってこない構成の本である。

アルベルティとメディチ家を巡る、エッセイ的な本。

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