2014年4月2日水曜日

『薩摩民衆支配の構造―現代民衆意識の基層を探る』中村 明蔵 著

薩摩藩がどうやって民衆を支配し、それが現在の県民性にどのように影響を及ぼしているかを推測した本。

本書では、近世の薩摩藩における農民の統治政策を概観しているが、著者は古代史の専門家であり、近世史は「興味ある分野」としているに過ぎないので、その記述ぶりは随分と大雑把であり、「民衆支配の構造」というほど重厚な分析はされていない。だが逆に様々な統治政策の全体像を見渡すのには便利ではある。

私が本書を手に取ったのは、薩摩藩の宗教政策について知りたいことがあったからなのだが、実は疑問点については解消しなかった。また、内容は郷土誌等でよく説明されることが多い「門割制度」「外城制」や高率の税制などが中心なので、特に新規な事項もなく、個人的にはさほど勉強になる本ではなかったが、そうしたことが教科書風に手際よくまとまっているところに本書の価値がある。

内容を簡単に紹介すると以下の通りである。

少し長いプロローグでは、江戸期に鹿児島を訪れた人の目を通してその実態を探り、他藩にくらべて遅れた社会であったとする。

第1章では鹿児島の土地の低い生産性と近世以前の鹿児島の歴史を概観する。

第2章は薩摩藩の統治政策の説明であり、武士が極端に多い社会だったこと、その帰結としての外城制、そして農民を均一で弱い存在とするための門割制度、高率の税制を述べ、それらが他藩の一般的状況とどう異なっていたか比較する。

第3章は文教政策の説明であり、武士階層は郷中教育があったが庶民階層には教育施設・仕組みらしきものはなかったとし、特に鹿児島には寺子屋がほとんど存在していなかったことを指摘する。また宗教政策では真宗禁制と廃仏毀釈について述べる。

第4章では、そうした統治政策を「中世的」であったとまとめ、そのために農民が無知蒙昧で無気力な状態に置かれたとする。

第5章は明治以降に士族・平民の意識がどう変化していったかを簡単に見るもので、士族的な考え方や行動様式が平民にも次第に浸透していった(その逆ではない)と推測し、郷土芸能などにも民衆的なものが少なく武士階級のものがよく残っているとのはその証拠であると示唆する。

これらそれぞれの項目について、それぞれ一冊の本が必要であるような大きなテーマなのであるが、本書では深くは立ち入らず、簡潔にまとめている。そこに不満もないではないが、薩摩藩の統治政策を大まかに掴むにはよい本。

【関連書籍】
『鹿児島藩の廃仏毀釈』名越 護 著
https://shomotsushuyu.blogspot.com/2017/10/blog-post_18.html
鹿児島の廃仏毀釈の実態について、郷土資料を中心にまとめた本。

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