2013年5月19日日曜日

『山の神 易・五行と日本の原始蛇信仰』吉野 裕子 著

山の神 易・五行と日本の原始蛇信仰 (講談社学術文庫)
日本の山の神信仰の基礎として、蛇信仰及び五行説があったことを主張する本。

著者の主張によれば、山の神信仰には2つの考え方が影響しているという。第1に祖霊信仰としての原始蛇信仰。第2に五行説による猪信仰だ。

原始蛇信仰については、別の著書で著書はより詳細に論じているので、本書ではサワリを紹介する感じになっているが、正直なところあまり説得的な論拠は呈示されない。蛇が信仰された理由も、「蛇は男根型だから信仰された」というようなあまりに一面的な見方をされており、例証する様々な事例も牽強付会の謗りを免れないものであって、極めて不用意である。それにしても、著者は細長いものを見るとすぐに「男根型」を想起するのであるが、もう少し慎重に検証をしてもらいたいと思う。

猪信仰については、陰陽五行説において太陰にあてられる亥が山の神に見立てられたのではという推測から、山の神信仰の謎を解き明かしている。これは見方として独自なものがあり、興味深い点も多い。しかしながら、やはり結論が先にありきで例証をつまみ食いしている感が強い。

そもそも全体の調子が、推測を重ねながらそれをすぐに断定へと変化させ、軽々しく「謎が解けた」とする部分が多く、学術的に未熟である。処女作の『扇』ではそういう素人的な見方が面白かったが、著作を重ねてもそういう軽挙妄動を繰り返しているのを見ると、この人はずっと素人としての研究者だったのだなと感じる。もちろんそれが面白い部分もあるが、基本的には一部の好事家が喜ぶだけのものに終わってしまっている。

本書は書き下ろしではなく各誌に発表した論考をまとめたものであり、全体的なまとまりもイマイチである。学術文庫で900円は、正直過大評価と思う。見るべき部分もたくさんあるが、学問的な未熟さや軽率さが先に目に付いてしまう本。

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