2019年9月7日土曜日

『鎌倉武士の実像―合戦と暮しのおきて』石井 進 著

鎌倉武士の実態を様々な側面から描く本。

本書は、石井 進氏の論文集でありⅠ〜Ⅳの4部構成となっている。

Ⅰでは中世成立期の軍政や、鎌倉幕府成立の通史、相武地方の武士団の成長が述べられる。特に相武地方について取り上げられているのは、当該論文が元々「神奈川県史」の一節であったためで、ややローカルな部分もあるが鎌倉幕府のお膝元であった相武地方の様相が分かるのは興味深い。

Ⅱでは、武士の生活が農業経営の観点から取り上げられる。中世の村落はまず山裾の迫の部分から開発されたが、やがて新しい豪族が入ってくるとその下流の平野の開発が進み、豪族の館も平野部に建てられるようになる。山裾の部分の水田を開発するのは容易であるが、平地に水田を広げていくのはより進んだ水利技術を必要とする。新しい開発領主たちはそういう技術を持っていたのではと簡単に書いてあるが、仮にそうだとしてその技術をどこで手に入れたのか興味が湧いた。

Ⅲでは『蒙古襲来絵詞』と竹崎季長、霜月騒動、金沢文庫と『吾妻鏡』、鎌倉の道についてなど、関連しつつも雑多な論文が収録されている。

Ⅳでは、改めて「中世武士とは何か」という問を立て、短いながら啓発されるところの多い考察が行われている。 武士にとって、「名字の地」(本拠地)を持つことと共に、「祖先」を持つことが必須の条件であったと強調されているが、これについては改めて考えてみたいところである。現代の感覚からすれば本拠地(農業経営)と武力さえあれば武士といえそうなものであるが、なぜ彼らは「先祖」すなわち立派な家系図を持つことが重要だと考えたのだろうか。

鎌倉近郊の武士の実像を考える上で参考になるところが多い本。

【関連書籍】
『日本の歴史 (7) 鎌倉幕府』石井 進 著
http://shomotsushuyu.blogspot.com/2019/09/7.html
鎌倉幕府成立の意義がよくわかる良書。

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