「武」をキーワードにした、日本文化論。
著者の石毛直道氏は、主に食の分野を専門にするの文化人類学者・民族学者。各地をフィールド・ワークするうちに日本文化の東アジアでの位置づけや特色に興味を持ち、あまり専門的でない立場から書いたのが本書である。
その内容は、「中国文明を受容した東アジアの社会においては、儒教を基盤とした「文」の論理が優越していたのに、日本では儒教は本格的には導入されず、力で現実問題を解決していく「武」の論理が支配的となったため、他の東アジア諸国にはない社会の特徴ができた」とまとめられる。
これは首肯できる主張であるが、しかしこの程度のことは半世紀も前に仏教学者の中村 元が『日本人の思惟方法』で世界に訴えていたことの同工異曲ではないか。専門的でない立場からの気軽な本であるにしても、表面的な内容であるように感じた。
ただしその中に「都市と外食」という一節があり、ここは著者の専門であるだけにものすごく参考になった。ここでは、世界の諸都市において外食産業がどのように始まったかということが概観されており、たった10ページほどしかないがこの部分だけでも本書の価値がある。その節では、19世紀前半の江戸はおそらく世界で最も飲食店が集中した都市であったと考えられる、と指摘しているが、こうしたことをもう少し書いてくれる方が日本文化の特色が浮かび上がってくるのではないかと感じた。
全体的には平凡だが、食文化についてはさすがに参考になる文化論。
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