2012年10月1日月曜日

『日本神話の源流』 吉田 敦彦 著

日本神話と類似の構造やストーリーを有する南洋、江南、印欧神話を紹介する本。

日本神話が大陸および南洋(ポリネシア等)から様々な影響を受けて成立したことはよく指摘されるとおりで、特に海幸彦・山幸彦の釣り針喪失譚などはポリネシアにも類似の神話が多数散見されるなど、神話の分布の様相は人類史的にも興味深いテーマである。

しかし、釣り針喪失譚についてはよく指摘されるもののそれを体系的に述べた本は実はあまりなく、本書においてもつまみ食い的に紹介されるに過ぎない。著者は印欧神話の比較神話学の大家ジョルジュ・デュメジルに師事しており、その専門は印欧神話、特にギリシア神話なのでこれはしょうがない面がある。

つまり、印欧神話との比較の部分以外は著者にとっても専門外であるため、少し物足りない部分もあるのは否めない。しかしながら、むしろ本書の面白さは、バリバリの日本神話の学者ではなく、印欧神話を中心にした比較神話学者が日本神話を見るとどう映るか、という点にある。

正直、その見解は「こうとも考えられる」「これはあれと似ていなくもない」のような憶測に頼った弱い面が散見され、説得力は強くない。私自身は、著者の見解にはかなり懐疑的だ。 とはいうものの、日本神話がこうして様々な地域の神話との比較を受けるという機会はあまりないので、その意味では貴重な本だと思うし、憶測が多いとは言っても著者は学術的スタンスを崩さないので安心して読める。

著者が一貫してその主張を支持した民俗学者の大林太良や松本信広の本も読んでみたいと思った。

0 件のコメント:

コメントを投稿