インドというつかみ所のない国を、「多様と統一」「本音と建前」というキーワードを用いながらその横顔を紹介する本。
この本は「生活の世界歴史」のシリーズに入っているが、ほとんど歴史的なことは語られない。それに、インド民衆の生活の変遷(例えば、カースト制の変遷など)を知りたいという人にも役に立たない。インドの民衆がかつてどうであったか、ということは資料があまりにも限定されていて、実際のところよくわからないそうだ。
というのも、インドにおいては書記階級はずっとバラモンであったので、バラモンの目からだけの「建前」の世界が記述されてきた。しかし実際とは食い違いがあったようで、その実態は茫洋としている。カースト制度も、実は本音と建前が入り乱れていて、その運用は複雑怪奇なのである。
ただ、現在のインドの姿の紹介は非常に丁寧で、インドに在住していた著者達ならではの実感のこもった記述が溢れている。一般の日本人にとってあまりイメージがないインド民衆の衣食住について、このように整理・紹介してくれる本は稀有である。
また、インドというと「とにかく多様な国だ」、と語られがちなのであるが、本書では多様な民俗や言語を包容するインド亜大陸が、どのように「インド」として統一されているかを説明する。それを乱暴に要約すれば、ヒンドゥーとカースト制(この2つは不可分であるが)による社会の規定が、良くも悪くもインドを統一しているのだ、となる。それが妥当な見解なのか私にはよくわからないが、ナルホドと唸らされる説明ぶりである。
本書は、インドの文化論としては論旨が明快で説得力があり、バランスの取れたものであると思う。とはいえ、文化論を謳っているわけではないから、その記述は体系的でないし、あくまでインド文化の軽い紹介のレベルに留められている。それは少し残念だが、そのためもあってか語り口は平易で、読みやすい。
「生活の世界歴史」の本なのかというのが疑問ではあるが、良書だと思う。
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