様々な宗教に共通して見られる種々のモチーフについて述べる本。
本書は、エリアーデによる大規模な著作『比較宗教における類型(評者仮訳)』の抄訳である。世界的な宗教学者である著者は、様々な宗教に共通して見られるモチーフ、例えば「天空神」「地母神」「宇宙木」といったものを取り上げ、考察する。そして、何が「聖なるもの」として扱われるのかという宗教の根源を探ろうとする。
ただし、その態度は体系的・学術的なものというよりは、とにかく並べてみようという博物学的、コレクション的なものであって、そこに添えられた考察も素人目には思いつきの域を出ないもののように思われる。エリアーデの研究はある意味で19世紀的な手法によって行われていて、独断や大胆な推論が多く、今日的な視点からは少し脇が甘いような感じがするが、世界の諸宗教から縦横に例を引いてくるのはさすがというべきで、そこに現れる共通のモチーフをただ列挙していくだけであったとしても本書には価値があると思う。
しかもそのモチーフが、思想的なものというよりも、図像的なものを中心として取り上げているので、イコノロジーの博物館とでもいうべき本である。本書には図が全く掲載されていないが、本書に適当な図をつけて参考書としたら非常に面白い本が出来ると思う。
私が本書を手に取ったのは、地母神信仰について知りたかったからで、特にその地理的広がりや地母神の性格といったものに興味があった。日本の神話では地母神らしい地母神がなく、鹿児島の農耕の神である「田の神」は男性であるし、中東あたりによく見られる「生産力の象徴としての女性」という観念が希薄である。どうしてこのような差異が生じたのであろうか?
本書は体系的な研究書ではないので、それに対する答えは全く得られなかったが、様々なモチーフがどんどんと現れ、いろいろなことを空想させられる本である。
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